2024.10.10
2024年度課題「記憶に留めておく一枚の報道写真」
「AFPWAA」は十大学合同セミナーに協賛し、2018年度よりワークショップを開催しています。
ワークショップに参加した大学生は、課題に沿って報道写真を一枚選択して、日本語のタイトルと解説文をつけて作品を作ります。
今年度で7回目の開催になりますが、ワークショップを継続して開催出来たことには深い意義があると考えます。各年度に提出されたレポートは、激変する世界の渦中で大学生ひとりひとりが、その時に何を考え、感じたのかを記録した貴重な資料です。
2024年度のワークショップでは82名の大学生からご応募いただきました。提出いただいたどのレポートも非常にレベルの高い内容で事務局としても選考に苦労しました。
「一人の死は悲劇だが数百万人の死は統計上の数字でしかない」
この言葉はスターリン、あるいはナチス・ドイツの親衛隊中佐アドルフ・アイヒマンが語ったと、いくつかの説があります。しかし、言葉の出典は不明であり、誰が最初に言ったのかは不明です。
みなさんが100日間のゼミで行ってきた軌跡は、いわば「客観的な統計上の数字をベースに、世界情況を論考する」という営為でした。
しかし、このワークショップでは、選択した一枚の報道写真を通じて「世界のリアルな情況」に対峙して、その思いを文章にしています。いわば写真が物語る「象徴的な局面(ある場合は理不尽な死)」について、あくまでも個人としてどう受け止めたのかをレポートしています。
かつて、フランスの哲学者J.P サルトルは1951年に「アフリカの飢えている子供たちを前にして文学に何ができるのか。」という問いかけを行いました。このサルトルとカミュの有名な論争は、文学の役割と限界に関する深い哲学的な問いかけでした。セミナーの参加者はこの命題と同じテーマを、ワークショップを通じて自らの課題として受け止めます。
そのような意味において、 ワークショップは10大の活動にとって意義深いものであると確信しています。
■最優秀賞「ルービックキューブ」
Ferenc ISZA / AFP
私は、子どもたちがみんなでルービックキューブを掲げている様子は、現代の社会問題との向き合い方を改めて考えさせてくれると思ったのでこの写真を選んだ。ルービックキューブは1カ所動かすと同時に別の個所も動いてしまう。だから、どこかを動かすときに、連動して動く個所を考えながら動かさなくてはならない。これは、現代の社会問題について考える場合も同じことが言えるのではないだろうか。一つの社会問題について考えていてもその根本では、まったく別の問題と結びついていたりする。また、問題解決のために起こしたはずのアクションが別の分野で新たな問題を引き起こしてしまったりする。ますます複雑化していく昨今の社会問題を見つめるとき、一つの側面だけに注目するのではなく、様々な側面からその問題を見つめる姿勢はルービックキューブをそろえるときの考え方と重なる部分があると思わせてくれることが選んだ理由である。
[明治学院大学 市野 ひかり]
【講評】
写真は2024年6月12日、ハンガリーの建築家エルノ・ルービックの発明50周年を祝うフラッシュモブで、ルービックキューブを持ってポーズをとるハンガリーの生徒たち。
ルービックキューブから、現代の社会問題との向き合い方に論旨を進めてゆく、市野さんのレポートは非常に個性的で、内容的にも強い説得力もありました。
■優秀賞「飢餓の少年」
ESSA AHMED / AFP
高校生の頃から、「何かが満たされない、それが何かはわからないが何かが足りない」という感情を覚えることが度々ある。有名なマズローの欲求五段階のように、生理的欲求や安全欲求が満たされないと、所属欲求や承認欲求、自己実現欲求は生まれない。その第一段階、第二段階が満たされているからこそ、それが当たり前の環境に身を置くことができているからこそ、今の欲求が生まれるため、現在の自分の状況に感謝とありがたみを感じなければならないと思い、選んだ。この少年は、最も基本的な生理的欲求が満たされていない。体を維持することに精いっぱいで、今私が感じているような感覚になることはないだろう。それを想像した時、この少年の目は、大きく目力があるものの、どこか弱々しく、力ないという印象を与える。撮影者に自分の苦しい状況を訴えながらも、その強い意志を感じさせるほど目に力をこめる体力が残っていない、そんな状況がうかがえて胸を打たれた。
[明治大学 藤原 広奈]
【講評】
2022年7月25日、イエメン北西部ハジャ州のアブス地区で撮影された、重度の急性栄養失調に苦しむ10歳の子ども、ハッサン・ラゼム。
悲惨な状況で生きる少年を見て、表層的な印象のみで感情的に描写するのでなく、その状況を深く理解しようとする、藤原さんの思いが伝わるレポートです。
■優秀賞“UN on Show”
ANGELA WEISS / AFP
現在、ウクライナ戦争やガザにおける紛争など国際秩序を揺らがす問題が立て続けに起こっている。その中で、国連は大国による政治ゲームに巻き込まれ、安全保障理事会の機能不全や人道的援助の制限や停滞の困難に見舞われている。
そのような国連を今私たちはどのように見ているだろうか。写真は、観覧室から見た国連の安全保障理事会の会議室である。各国のリーダーは、その椅子に座り机を囲んで、国際政治や外交について真剣に話をしている。彼らの視点から見れば、国益や国際益を守る正当な政治的場面だろう。しかし、少し距離をおいて遠くから現在の国際安全保障理事会をはじめ国連の様子は、議論だけし決定的な行動につながらないテレビのショーのように感じるのではないだろうか。この写真は、そのような構造を表すものであると思い、選択した。
[上智大学 中村 生]
【講評】
2024年6月10日、ニューヨークの国連本部。国連安全保障理事会は月曜日、米国が作成したガザ停戦案を支持する決議案を採択したときの写真。
報道写真=悲惨な戦場といったステレオタイプの発想でなく、国連の機能不全を象徴する写真をあえて選ぶ、中村さんの視点がユニークです。
■佳作「これも天然水」
Lillian SUWANRUMPHA / AFP
まず、この写真は視覚的に非常に魅力的です。広大な川が中心に位置し、その上に小さな船が孤独に進む様子が、自然と人間の調和を象徴しています。また、川の水面に映る光と影のコントラストが、朝の静けさと穏やかさを強調しており、非常に美しい瞬間を捉えています。
次に、写真の構図が非常に効果的です。中央に位置する船は視線を引きつけ、自然に視線を写真全体に導きます。背景の都市のシルエットが薄く見えることで、人間の生活と自然の風景が一体となった情景を描き出しています。これは、現代社会における自然環境と都市の共存というテーマを象徴しており、深いメッセージを伝えています。
さらに、この写真はドキュメンタリー性にも優れています。写真の提供者であるAFP(フランス通信社)のクレジットが示すように、この画像は報道写真としての価値もあります。特定の場所や時間を超えた普遍的な風景を捉えることで、人々に自然の美しさと重要性を再認識させる役割を果たしています。
以上の理由から、この写真を選びました。この一枚の写真が持つ視覚的な美しさ、構図の巧妙さ、そしてメッセージ性の強さが、選定の主な理由です。
[明治大学 齊藤 伊織]
【講評】
2019年9月20日に撮影されたこの航空写真は、ゴールデントライアングルのチェンライ県を示すタイ側(右)とラオス側(左)に沿ってメコン川を通過するボートを示しています。
斎藤さんが語るこの写真の魅力についての分析力がとても優れていました。合理的な文章の解説内容にも確かな説得力があります。
■佳作「私たちはどこへ向かうのか」
YAMIL LAGE / AFP
ウクライナ侵攻が始まって約2年以上。自分が生きている間は決して見ることのないと思っていた世界規模の戦争が起こっている。私たちが今これから向かおうとしている世界はいったいどんな世界なのだろう。あの旗を振った向こう側の未来にまた誰かが理不尽な死を与えられるのだろうか。
一人一人が見ている世界、住んでいる場所やバックグランドによって違う以上、それぞれに行き着く先に幸せが違ったとしても、誰も大切な人を理不尽に奪われることのない世界に向かっていきたい。そう考えて選んだ。
[東洋英和女学院大学 牧 優佳]
【講評】
2024年6月17日、キューバを訪問中のロシア海軍分遣艦隊の一部であるクラスフリゲート艦アドミラル・ゴルシュコフがハバナ港を離れる際、手を振る女性と少女の写真。
牧さんがつけた日本語タイトルに、若い世代がいだいている「未来に向けてへのいわれのない不安の感情」が素直に表れています。
■佳作「少年の目に映るもの」
AHMAD AL-BASHA / AFP
地面に残る血の跡は、少年の無垢な目に映るにはあまりに残酷で、そして鮮やかである。姿は映っていなくとも、そこに倒れた人の痛みが胸に迫る一枚である。
平和とは何か。十大での100日間を通じて改めて考え続けてきたが、シンプルなようで複雑かつ困難で、少なくとも世界の現状はその答えからはほど遠い。同時に、私はそれを言語化するにはあまりにも未熟であるとも思う。それでもあえて言葉にするならば、私たちがまず目指すべきは「誰もが天寿を全うできる」世界なのではないか。世界の分断をなくすのは難しいかもしれないが、それを乗り越えることを放棄し、理不尽に失われる命を許すわけにはいかない。
少年の胸にあるのは、悲しみか、怒りか、それとも諦念か。これから彼が生きる世界が少しでも穏やかで幸せに溢れたものであることを、勝手ながら祈るばかりである。
[早稲田大学 今永 歩]
【講評】
イスラエル軍は6月6日、戦闘機がガザ中心部でパレスチナ武装勢力が使用する国連運営の学校を攻撃したと発表、ハマスが運営する同地域の当局は、少なくとも27人が死亡したと報告しています。
今永さんのレポートは10大で学んできた経験と、この写真が喚起する現実の過酷な状況の狭間で感じている現在の心境を綴っています。
2023.08.4
2023年度課題「世界の人々の命、暮らし、尊厳を守るには」
「AFPWAA」は十大学合同セミナーに協賛し、2018年度よりワークショップを開催しています。ワークショップに参加した大学生は、課題に沿って報道写真を一枚選択して、日本語のタイトルと解説文をつけて作品を作ります。今回で6回目の開催になりますが、ワークショップを継続して開催出来たことには深い意義があると考えます。各年度に提出されたレポートは、激変する世界の渦中で大学生ひとりひとりが、その時代に何を感じたのかを記した貴重な資料です。
青山学院大学名誉教授 羽場久美子先生は、ワークショップに参加する意義についてこう述べています。
「大学で国際関係を学ぶ中で、いかに一般に言われていることの背後にある現実を深く分析検討していくか、いわゆる日々の報道のステレオタイプとは異なる発想を紡ぎ出していけるか、に尽力していただきたい。」
2018年度~2019年度の課題は、「記憶留めておく一枚の報道写真」。
以下は、2019年度の羽場久美子先生による総評です。
「戦争の20世紀といわれる前世紀が終わってもなお、21世紀にも続く悲劇の現実を感じ、胸が痛む。現代国際政治経済は、矛盾に満ちており市民は深い憤り、悲しみのふちにある。しかし人類は、それを是正し、そこから脱出する『未来への展望』の力も常に持っている。報道写真には、どこにもぶつけようのない深い悲しみとともに、そこからどうしたら抜けられるかの思いにもあふれていた。」(一部抜粋)
2020年度の課題は「世界は新型コロナウィルス感染症とどう戦ったのか」。
審査員の青山学院大学教育人間学部教授 野末俊比古先生はこう述べています。
「新型コロナウイルス感染症という人類共通の“敵”に立ち向かおうとするとき、格差、差別、貧困、紛争といった、私たちの世界が抱えている“ひずみ”を意識せざるを得ないことを、今回の選考を通して再認識させられた。今回の応募を通して、私たちはどう生きるのか、どんな社会をつくるのか、何ができるのか、あらためて考える機会になっていればと願っている。」
2023年度の課題は「世界の人々の命、暮らし、尊厳を守るには」。
AFP Forum から、この課題に最も適する報道写真を1 枚選び、同世代の⽇本⼈に伝えたいこと、知ってほしいことを、自分自身のメッセージとして記述します。今年度は85名のみなさんからご応募いただきました。
今年度の受賞作品は、報道写真を自分なりの視点で、深く読み込むという点において、極めて優れたレポートでした。一枚の写真が描写している状況とテーマについて個の立場から、深く洞察してゆく姿勢が何よりも素晴らしかったです。
最優秀賞「空洞的/希望的」
Genya SAVILOV / AFP
自転車という「日常的」な乗り物によって、建物がポッカリと穴を空けている「非日常的」な光景を一瞥する様子から、戦争のその異常さを際立たせている。
建物の上部がかろうじて繋がっていることから、まだ希望は残されているように感じるが、一方で煤だらけで今にも崩れ落ちそうな建物の様子から、修復の困難さを見せつけられている。
残された希望は少ないが、まだ解決の余地がある。傍観者としてただそこにいるだけでなく、困難な問題解決のために模索する必要があると思う。
【背景・込めた思い】
色彩の少ない写真を意識的に選ぶようにしていた。なぜなら戦争とは色の欠落した行為であると考えるからである。なぜこの写真を選んだかというと、日常と非日常の対比が明確であり、写真の上部は淀んだ空、煤まみれの集合住宅、下部はほんの少し色彩のあるレジ袋や窓の黄色などがあり、良いコントラストであると感じたためである。また特に目を引くのが穴の空いた建物で、戦争の空虚さを象徴しているように感じたためメッセージ性の強い良い写真だと考えたためこの写真を選んだ。
また私がこの写真に対するメッセージに込めた思いは、戦争が非日常から日常へと変質していくことの異常さと、それに対する我々の無力さを伝えたいと考えたところにある。空虚ながらまだ希望の糸口はあることも伝えたい。
[早稲田大学 竹内 敦志]
優秀賞「さだめとひかり」
HOSHANG HASHIMI / AFP
この写真にはアフガニスタンに住む人の足が映っています。この人の足やズボンはひどく汚れ、もしかしたら怪我をしているかもしれません。私はこの姿を見て、アフガニスタンという国に生まれただけでこんな悲惨な目に遭ってしまう悲しい宿命(さだめ)をこの方は背負っていると感じました。しかしその一方で右奥から覗く一筋の光に小さな希望を感じ、この人が自身の背負う宿命から放たれ希望に満ちた未来が待ち望んでいて欲しいという願いを込めました。
【背景・込めた思い】
私は以前から貧困問題に関心がありました。どれだけ平和を唱えようともこの世界には貧困や飢餓がなくなりません。この写真は体の一部しか映っていないにも関わらず、そうした現状を生の状態で伝えてくれる一枚だと思ったため、選びました。
[東洋英和女学院大学 関 真里奈]
佳作「『犠牲』にしてはならない」
PIUS UTOMI EKPEI / AFP
ウクライナ戦争とそれに伴う国際社会の動揺は、世界中の物価高騰の一因として挙げられます。日本でも価格高騰の要因となったり、特に貿易関係が強くあるEUでも食料・燃料など様々な必需品に影響を与えていたりと深刻な問題となっています。国際社会が危機に瀕する時に、最も影響を被る人々は途上国地域の方々です。我々は、戦争という大きなトピックに隠れてしまいがちな影響とその問題に目を向けなければなりません。
【背景・込めた思い】
私は、十大学合同セミナーにおいて経済セクションに所属しています。経済セクションでは、小麦価格高騰の要因を探り経済相互依存論の観点から問題を考えるという論文を執筆しました。その中で論文の内容には含まれていませんが、アフリカ地域では主食である小麦価格高騰により食料安全保障の危機に瀕していることを知りました。ウクライナ戦争というトピックは、現代社会においてあまりにインパクトが強い問題です。そのため、しばしばウクライナ戦争が与える影響を見落としてしまいます。特に、アフリカ地域に対して日本は地理的にも遠く意識して情報を得なければ正しい理解が困難であるといえます。しかし、国際社会の一員として“No one left behind”を達成するという観点から、また人道的な観点からも我々はその問題に目を向けて解決の手助けをする必要があります。そして、日本の人々が現状を知ることが、日本という国を動かす力となると私は考えました。
[早稲田大学 小笠原 萌]
佳作「一人の無関心が大きな沈黙につながる」
YASUYOSHI CHIBA / AFP
世界には様々な差別が存在する。しかし、文化や歴史に関わらず共通で存在するのが女性に対する差別である。1967年、国連総会で女子差別撤廃宣言が採択されたが、今日でも依然として女性への差別は色々な形で残っている。アフリカ諸国で色濃く残っている女性器切除や、アジアや中東でも児童婚が残っていること、先進国でも女性役員や議員の割合が低いことなど、挙げたらきりがないほど問題が存在している。このような問題に目を背けていていいのだろうか。一人の無関心が沈黙へと繋がる。
【背景・込めた思い】
この写真に写っている二人は女性器切除や児童婚から逃げてきた子どもたちいる学校に通っている二人の少女である。女性や子どもたちの権利が守られていなく、尊厳を傷つけられている人々が多く存在する。国連で女子差別撤廃宣言が採択されてから50年が経過した。はたして50年間で、ただ女性として生まれただけで、理不尽な目にあう状況は改善されたのだろうか。女性として生きることの尊厳を傷つけられることは、人間としての尊厳を傷つけられることと同じである。一人が無関心でいることは、大きな無関心を生み出す。今日では女性に対する差別だけではなく、人種への差別など多くの差別が存在する。この差別にも同様に無関心でいてはならない。私たちにできることはなんだろうか、絶えずこの疑問に向き合っていくことで「世界の人々の命、暮らし、尊厳を守るには」どうしたらいいのか、解決策が思い浮かんでくるように思われる。
[東京女子大学 谷川 瑞華]
佳作「少女が語ること」
ED JONES / AFP
寒さ、食糧不足による栄養失調、不衛生な水や環境、不十分な教育・医療体制など難民としての生活に多くの困難が未解決である中、肺炎に苦しむ子供たちが急増しているという現実があります。難民キャンプで暮らす人々の主な死因として肺炎が含まれていることを踏まえ、彼女の行動が何を訴えているのか、少しでも多くの人が思いを馳せ、小さくも大きな一歩となる一人の行動につなげることが必要です。
【背景・込めた思い】
この広大で人影のない場所で、少女は何をしているんだろう?と目を引かれました。近隣にある田畑で稲ではなくその茎を集めている環境の苦しさや、あたりが暗くなっている中、独りでひたすらに探し続けて生活を紡いでいかねばならない残酷さがこの1枚から見て取れます。難民として生活する彼女はその小さな背中にどれほどのものを背負っているのか、考えるきっかけを与えてくれたことを理由にこの写真を選びました。
[東洋大学 小林 布侑]
佳作「『尊い命』の未来を紡ぐ」
AHMAD AL-BASHA / AFP
床に紙をおき、あぐらをかき、ノートをとる。この一瞬、一日の学びがこの子たちの将来にとって、どれだけ大切な時間か。現在も続く壊滅的な中東の紛争の最大の犠牲のひとつに子どもたちの教育がある。紛争地域では、未来を担うはずの子どもたちの教育の場が失われ、彼らは「尊い命」として扱われない。この写真が撮られたイエメンのこどもたちは、ときに爆弾をくくりつけられ自爆攻撃を強要されることがあるという。子どもたちが教室に戻ることは、彼ら自身の未来と永続的で包括的な平和を実現するために協力するために不可欠である。大国による紛争によって、この子たちの「学び」の選択を潰してはならない。
【背景・込めた思い】
教育は不可欠であると考えた。
[早稲田大学 徳久 聖奈]
2023.05.1
課題「記憶に留めておく一枚の報道写真」
「AFPWAA」 は十大学合同セミナーに協賛し、2018年度よりワークショップ を開催しています。
ワークショップに参加した大学生は、課題に沿って報道写真を一枚選択して、日本語のタイトルと解説文をつけて作品を作ります。
2022年度は青山学院大学名誉教授 羽場久美子先生に応募作品の選考をお願いしました。
[2022年度 総評]
羽場 久美子 (青山学院大学名誉教授、世界国際関係学会アジア太平洋会長)
「一人の死は悲劇だが、集団の死は統計」(数字は諸説ある)とは、ドイツの親衛隊員、アドルフ・アイヒマンが言った言葉とされている。しかしこの間、起こっていることは一人の死にも、一万の死にも、数百万の難民にも、すべて一人一人に悲劇があり、かつそれぞれに複雑な背景があって、決して単純化してはならないということだ。
衝撃的な事実があってもそれ一色に国際社会を染めてはならない。プロパガンダや感情に支配されてはならない。一つ一つの事実の背景を深く洞察し、多面的視点から分析していくこそが、国際政治・国際関係を学ぶ・考える人たちに課せられた課題なのではないだろうか。
今年はAFPの写真と学生さんの講評に、紛争、特にロシア・ウクライナ戦争に関するものが圧倒的に多く、2年間のコロナの写真を凌いで、紛争と難民と死がコロナ禍を脇に押しやった感がある。加えて2月から4月、ロシア批判一色であった論調が最近、「なぜアフガニスタン侵攻、シリアやパレスチナ、ミャンマーは語られないのか」、という米欧中心の視点に対する多面的な批判や疑問に発展していることも見逃せない。
AFPの映像も皆さんのコメントも、そうした多面的思考の深遠さにも言及しており、優れたものが多く、さすがと敬服した。
その結果、ウクライナ一色に染まらず、国際社会の矛盾を多面的かつ深くとらえた写真とコメントを選ばせて頂いた。
皆さんも大学で国際関係を学ぶ中で、いかに一般に言われていることの背後にある現実を深く分析検討していくか、いわゆる日々の報道のステレオタイプとは異なる発想を紡ぎ出していけるか、に尽力していただきたい。
年を追ってレベルが高くなっていくようで、今回もAFPのシャープな現実を切り取る優れた映像と、学生さんの優れた多面的な分析と思考に感動しつつ選考させて頂きました。
最優秀賞「忘れてはいけないもの」
Yuriy Dyachyshyn / AFP
[写真を選んだ理由]
ショックのあまり墓を見つめながら放心する1人の男性。この写真はロシアのウクライナ侵攻中に亡くなったウクライナの軍人の葬式の様子である。大切な人を失った悲しみ、終わりの見えない戦争への絶望感、この男性の表情には戦争に苦しむ人々の感情が全て詰め込まれている。あと何千の、何万の屍を築けば夜明けが見えるのだろうか。今までの日常はいつになったら取り戻せるのか。この争いが起こった以上、国民の生活を守る為にも両国は決して負けることができない。しかし亡くなった人々には、一人一人友人や家族など大切な人がいる。人の命は尊いものであることを忘れてはならない。
[早稲田大学 吉田菜那]
[講評] 羽場久美子
ウクライナ西部のリヴィウで、ロシアのウクライナ侵攻時に殺された、Oleh Skybykの葬儀の前で茫然自失となり悲しむ友人や親せきたち。AFPが名前をあえて記入しているのはそこで起こっている「一人の悲劇の死」を記憶にとどめるため。
吉田さんもこうした一人の死、に目を止めそれを忘れてはいけないと訴える。そしてその背景と、それを止めるためにはどうすべきかを考え続けようとする。忘れないということは、繰り返し停戦が提案されながら覆されていく国際政治の矛盾に対する抗議でもある。次は東アジア・中国での戦争が囁かれているとき、武装軍拡ではなく、第2次世界大戦後に誓った敵対国との対話と和解こそが平和の原点である、ということに思いを注ぐ人が少なすぎる。
憎しみや戦争継続は世界に紛争を拡大する。「愚者は経験に学ぶ、賢者は歴史に学ぶ。」我々は、目の前で起こっている事実に振り回されるだけでなく、その背後に何があってこうなったか、どうすればこの悲劇を解決できるか、を考え続けなければならない。
優秀賞「世代を超えたゴミ回収」
Delil souleiman / AFP
[写真を選んだ理由]
キャンプに避難を余儀なくされたシリア人の多くは、難民キャンプの向かいにあるごみ捨て場からプラスチックや金属片を拾って売り、生活している。この写真から、大人だけでなくまだ幼い子どもも、ゴミ回収を手伝わないといけない状況にあることが分かる。
親から子ども、そして孫の世代まで難民のまま過ごす人も少なくなく、難民キャンプで生まれ難民キャンプで一生を終える人もいる現状を忘れてはならないと考える。世代が変わっても難民から抜け出せない原因の一つに教育の不十分さが挙げられる。難民キャンプで十分に教育が受けられなければ、その生活から脱却することも難しいだろう。教育を受ける権利は誰にでも保障されるべきものであり、子どもの難民への教育が不十分である現状を私たちは心にとどめておく必要があると考える。(ペンネーム:藤の花)
[東京女子大学]
[講評] 羽場久美子
こちらも、グローバルな問題を重ね合わせた優れた写真と論評だ。ゴミの山からまっすぐにこちらを眺めている子供は、近くの難民キャンプからまだ年端も行かないのにゴミから生活できるものを拾いあさっている。シリアを空爆して彼らを難民にしているのは強国・先進国や政府、難民キャンプのわきに多大なゴミの山を作っているのもマクロに見れば先進国のゴミである。1億を超える難民、7億の貧困者、その半分が子供たち…。
先進国の私たちは、こうした状況に、私たち自身も責任を負っていること、どうすれば持続的な教育と平和、発展を保証できるのかを、考えていかなければならない。
佳作「ボートでイギリスに入国しようとして下船させられる難民」
Daniel LEAL / AFP
[写真を選んだ理由]
2021年、イギリスにボートで渡った難民を、政府は違法であるとして追い返す措置をとった。難民を危険のある母国へ強制送還するのは人道的でなく、難民保護の原則にも反している。強硬な手段をとることは望ましくなく、難民たちは命の危機にさらされた。
また、この事象はベトナム戦争などで発生したボートピープルを連想させる。当時のように、海上の治安が悪化することも考えられる。これはイギリスだけでなく、世界の問題だと考えられる。
[早稲田大学 加藤優音]
[講評] 羽場久美子
世界の難民は、一億人を突破したと言われる。ウクライナからの難民は600万人を超えるが、これまでも世界最大の難民はシリア、そしてアフガニスタンなど中東の国々からの難民だ。ウクライナ難民は積極的に受け入れる欧州の人々も、この写真のように、有色(カラード)の難民に対しては未だきわめて冷たいし、ウクライナの西部国境でさえ、ロマや有色人種の難民の受け入れは拒否されている。この世界には「難民」といえども見えない2重基準が存在する。そうした問題意識を鋭く感じさせる写真選択と、コメントである。つい何か月前まで、ベラルーシからの難民を追い払っていたポーランドの東側国境の問題とも重なる。国際政治の諸事象は、マイノリティとマジョリティ、正義と不正義、公正と差別などを、ひだのように重ねながら存在している。それを鋭く問い返した写真とコメントである。
佳作「ウクライナから3000㎞ 離れた戦場」
MOHAMMED ABED / AFP
[写真を選んだ理由]
ロシア軍がウクライナ侵攻を開始してから約2ヶ月。廃墟となったマリウポリやブチャでの虐殺などを始めとする悲惨なニュースがテレビなどによって報じられる度に、私を含め多くの人々が一刻も早い戦争の終結と平和の実現を祈っていると思う。しかし、こうしたウクライナでの悲劇がメディアで大きく取り上げられる一方、イスラエル・パレスチナの紛争やシリア内戦を始めとした現在も続いている地域紛争は殆ど報道されることがなく、問題だという声も現在のウクライナ危機に比べれば遥かに小さい。この写真は、ウクライナから約3000km離れたパレスチナのガザ地区で撮影されたものである。もし仮にこの写真がキエフの中心部で今日撮影された写真だったならば、この写真に対する反応も注目のされ方も全然違うものになっていただろう。世界では、ウクライナの他にも多くの国で内戦や戦争が起こっている。ウクライナ危機はもちろん、他の国で起こっている紛争に対しても問題意識と関心を持ち、ウクライナ危機と同様に声を上げていく事が今こそ大切だと私は思う。
[明治大学 白石實久]
[講評] 羽場久美子
連日のニュースで、ウクライナが朝から晩まで報じられ続ける一方、それを上回る長期戦が、イスラエル・パレスチナ、シリア、中東で続いていること、世界では多くの国で、建物や町ががれきになり多大な難民を出している写真に目を止めた白石君。
ウクライナのすぐ南で数十年も続いているパレスチナやシリアの戦争に目をつむり続けることはフェアではないであろう。世界にアンテナを張り続けること、自分の問題として、パレスチナや中東にも温かい目を向けることが重要と思わせる作品である。
佳作「ミャンマー問題を風化させない」
Money SHARMA / AFP
[写真を選んだ理由]
こちらは抵抗のサインをするミャンマー市民の写真です。ミャンマーでは昨年の2月に国軍によるクーデターが発生しました。影響は一般市民の生活にもおよび、国軍の弾圧によって多くの市民が命を落としました。ミャンマークーデターは民主主義を揺るがす問題というだけでなく、人道的な視点からも批判され、日本でも大きな注目を集めました。しかし事態が大きな進展をしなくなると、世間の注目は新たなニュース、米中対立やアフガニスタン情勢、ウクライナ問題へと移っていきました。現在、日本のメディアで扱われることはほとんどありません。果たして今どれだけの人がミャンマーに注目しているでしょうか。この写真自体が何かのメッセージ性を持つのかは分かりませんが、私たちは世の中に伝えられる情報をただ消費するだけで終わっていないか。メディアが報道しなければ忘れてもいいのか。改めて考えるために、今ミャンマー情勢に関するこの写真を選びました。(ペンネーム:いとまきえい)
[早稲田大学]
[講評] 羽場久美子
昨年の2月に起こった、ミャンマー国軍のクーデター。軍事政権は強力で、この6月末には、国民の人気の高いスーチー女史を刑務所に移送することとなった。非合理は世界中で続けられている。その一つ一つに心を砕くことはつらいことである。
2022年2月にデリーで行われた抗議行動に参加した薔薇の花を持ち、指を3本掲げた女性。抵抗、不服従、解放を無言で訴える。報じられることが少なくなったが、抵抗運動が今も継続していることを忘れてはならない。しっかりと心に留めようとしてこの写真を選び、決意を語った姿勢と言葉を評価したい。
2022.09.8
2022年8月1日(月) 神田外語大学や神田外語学院を擁する神田外語グループ(東京都千代田区/理事長 佐野元泰)は、ビジュアルで訴える授業展開や教材開発に向け、創立1835年のフランス・AFP通信の教育機関向けデータベースサービスAFP World Academic Archiveを導入しました。
創立以来約170年もの間、AFP通信が取材した4,000万枚以上の報道写真、40万点以上のニュース映像や記事等を活用できる本サービスの導入で、ビジュアルに富んだ授業や教材の展開、授業やプレゼンテーション資料での活用などが期待されます。さらに、世界に広がるAFP通信のネットワークによって蓄積された写真・映像・記事を横断的に検索することで、学生及び教職員のメディアリテラシーの向上も見込まれます。
世界最大級の収蔵数を誇るアーカイブからは、さまざまな学問分野や研究テーマに関する検索が可能です。神田外語大学や専門学校神田外語学院において、視聴覚に訴える魅力的な授業の展開、最新ニュースをテーマにしたゼミやワークショップ、課題作成のツールとして利用できます。また、ニュース映像には全文スクリプトと要約が添付されているため、学生にとって最適な語学教材になることも期待されます。さらに、AFP通信のグローバルなネットワークを生かし、紛争や環境問題に焦点をあてた写真や映像は、SDGs学習にも最適です。
このたびの導入を機に、AFP通信東京支局長ルネ・スラマ氏が、8月23日(火)に神田外語大学を訪問しました。神田外語グループ理事長 佐野元泰氏と面談し、本サービスの活用方法や今後の連携についてディスカッションをおこないました。
AFP通信は本サービスを活用したワークショップやセミナーを開催しており、今後神田外語グループと連携して同様の企画を実施する予定です。
また、AFP通信が2021年10月に出版した、コロナパンデミックの軌跡をたどったフォトアルバム” The Year That Changed Our World”を含む2冊の書籍が、記念品として神田外語大学に贈呈されました。
記念品を持って握手する神田外語グループ理事長 佐野元泰氏とAFP通信東京支局長ルネ・スラマ氏
■神田外語グループについて
千葉の幕張にある「神田外語大学」と語学の専門学校である「神田外語学院」を設置する高等教育機関です。
高等教育の他、福島県岩瀬郡天栄村にあります英語研修施設兼リゾートホテルの「ブリティッシュヒルズ」や、早期英語教育として0歳~12歳までの児童教育をおこなう幼児・児童の英語教室を展開する「神田外語キッズクラブ」、社会人向けにビジネス英語研修をおこなう「神田外語キャリアカレッジ」など、関連事業も展開しています。
一貫して、建学の理念である「言葉は世界をつなぐ平和の礎」に基づき、国際社会の一員として世界に貢献する意欲と能力をもつ人材の育成を目的としています。
神田外語グループホームページ:https://www.kandagaigo.ac.jp/
本件に関しての神田外語グループプレスリリースはこちらから。 → https://www.u-presscenter.jp/
2022.07.10
2022.03.5
【エドテック導入補助金 2021】にご参加された学校からご提出いただいた効果報告レポート全文を掲載しました。
実際の活用事例をぜひご覧下さい。
2021.08.16
THOMAS KIENZLE / AFP
課題「記憶に留めておく一枚の報道写真」
「AFPWAA」 は十大学合同セミナーに協賛し、2018年度よりワークショップ を開催しています。
ワークショップに参加した大学生は、課題に沿って報道写真を一枚選択して、日本語のタイトルと解説文をつけて作品を作ります。
2021年度は青山学院大学国際政治経済学部教授 羽場久美子先生に応募作品の選考をお願いしました。
[2021年度 総評]
審査員 青山学院大学国際政治経済学部教授 羽場久美子
(世界国際関係学会(ISA)アジア太平洋、副会長。グローバル国際関係研究所所長。京都大学客員教授)
2021年の124点も、心を揺さぶられる優れた映像の写真と、皆さんの優れた感受性が一つ一つのことばに凝縮している、大変心を動かされるものばかりでした。124点の中から、50点ほどほぼ半分近くの優秀作品をピックアップし、そこからさらに25点に絞り、あとはなかなか選別しきることができず、深い洞察力を持った写真とコメントの一つ一つに見入っておりました。結局最後の優秀賞・佳作賞6点に絞るまでに多大な時間と決断力を要しました。
まずは全ての皆さんに、素晴らしい感性で、AFPの優れた写真を選び、かつ感動的なコメントを付けてくれたことに心より感謝します。入らなかった方々の写真とコメントにも、心から感銘を受け、手放し難かったことを申し添えておきます。
今回の写真選択の特徴、特に優秀作品のテーマは、1)ミャンマー軍クーデターへの民衆の多様な抵抗や戦い、2)コロナ・パンデミックの世界的広がりと膨大な犠牲者、その中での心温まるふれあい、3)コロナ禍の死の恐怖が差別や地域紛争の広がりを引き起こし、子供や若者たちへの犠牲が拡大、4)ジョージ・フロイドさん殺害1周年を迎えたBLM(黒人の命も大切)運動、「誰も取り残さない」ことの重要性、5)人間の地球環境汚染が生態系を崩し、動植物にも大いなる影響を与えていること。など多彩でした。
またどのコメントにも、皆さんの国際社会に対する深い透徹した感性や思いが感じられ、さすが国際政治を学ぶ学生さんたち、と敬服しました。皆さんの分析を通して、2020~2021年の国際諸相と、思いやりや人のつながりの大切さを学ばせて頂きました。国際政治の分析力と人のぬくもりという感性を持った、素晴らしい作品コメントをありがとうございました。
優秀賞、佳作もその中から、厳しい現実の中にも未来の展望と愛情を確信させるような作品を選ばせて頂きました。皆様の洞察力に心より感銘を受けております。
(2021年6月12日 記)
【十大学合同セミナー受賞作品】
優秀賞としては、今回次の2点を選ばせて頂いた。
いずれも厳しい国際政治の現実から未来を創る転機を静かに見出そうとする温かい視点があり、どちらの優秀賞からも深い感銘を受けました。ありがとう。
優秀賞「静かなデモ」
これはミャンマーで起きた軍事クーデターに反対するデモに関する報道写真である。この写真をパッと見た時、夜中に多くのろうそくが灯るきれいな光景に見えた。しかしこれはデモの一部であり、日中には多くの人々がデモの弾圧により亡くなられている。このクーデターは総選挙を機に始まったものであり、デモ活動は今もなお続いている。そんな中で、この写真に写っている彼らのように武力で訴え返すのではなく、ただ行動で示すということに心打たれた。
相手の意思を曲げるための暴力はなくなるべきだとして、この一枚を記憶に留めておきたい。(ペンネーム:ももも)
[東洋英和女学院大学]
[講評] 羽場久美子(青山学院大学国際政治経済学部教授)
ミャンマーの軍事クーデターに対して、若者や市民たちがろうそくを掲げ、静かに抵抗と連帯を示してデモ行進している。自分たちこそが平和な未来を作るのだという確信と温かさを感じさせる写真である。実際には軍の弾圧があり、多くの若者が銃弾や攻撃に倒れた。
それでも暗闇の中で光を掲げ、画面一杯、奥まで広がり静かに光を掲げて行進する若者の眼は未来に向かって輝いている。それを熱く見守り暴力を否定する評者の視点が素晴らしい。
優秀賞「燃える命の炎」
私は、この写真を初めて見た時以前広島や長崎で語り部さんに聞いた原爆直後の情景を目の当たりにしたような妙な既視感に襲われた。2021年5月11日時点でのインド国内での累計死者数は24万9992人にも上り、新型コロナウイルスの脅威は留まるところを知らない。そうした異常事態により国内は混乱に陥り、今現在も通常時なら救うことが出来たはずの多くの命の灯達がその数の多さからまともな弔いを受けることもなく炎と共に消えていっている。
必要のない多くの犠牲・遺体の多さからまともな弔いが出来ず広場での火葬しかできないという異常事態など広島長崎の原爆を想起させるような状況が現在のインドにはある。
この写真は、そうしたインドと日本の共通点を言葉を伴わずとも明らかにしてしまう強いメッセージ性があり、もっと多くの日本人の目に留まり人々がインドの問題と向き合うべきだと考えたため今回選ばせていただいた。(ペンネーム:M)
[東京女子大学]
[講評] 羽場久美子(青山学院大学国際政治経済学部教授)
美しい光と見える炎はコロナの死者を焼く火葬の炎だ。インド国内ではコロナ変異株と医療体制の崩壊によって大量の死者が出、あっという間に死者は36万人を超えた。コロナの死者は、アメリカでは61万人、世界では380万人に至っている。実はインドのコロナ犠牲者については、「止まらない犠牲」、死者の一斉火葬と嘆く家族の凄まじい写真も素晴らしく、最後まで迷った。が、最終的に、20万、30万人に及ぶ死者を燃す炎を、広島・長崎の原爆と重ね、火葬の弔いから未来の平和を構築しようと望む「燃える命の炎」を選ばせて頂いた。
佳作「若き墓堀り人」
世界中でコロナウイルスの感染が拡大し、多くの人々が亡くなった。医療従事者の多忙さは日々のニュースから把握することができるが、仕事が増えたのは医療従事者だけではないということを忘れてはいけない。その一例として亡くなった人々の葬儀、埋葬のために仕事が増えた葬儀屋や墓掘り人がいる。
この写真が撮影されたイエメンでは墓の需要についていけず、写真奥にあるブルドーザーを借りて墓を掘っている。また、写真の少年は自分と同じくらい大きなシャベルを使いその作業を手伝っている。この少年がマスクや手袋をしておらず、亡くなった人のために墓を掘る人もまた感染の危機にあるということがわかり、コロナウイルス感染拡大の恐ろしさが伝わってくるため記憶に留めておく一枚だと思いこの写真を選んだ。(ペンネーム:グリーンティー)
[お茶の水女子大学]
[講評] 羽場久美子(青山学院大学国際政治経済学部教授)
イエメンのコロナウイルスの広がりと死者の増大に、死者の葬儀と埋葬が間に合わず、ブルドーザで墓を掘っている。その脇で年端も行かない少年が自分よりも大きなシャベルで墓を堀る。やるせない写真であると共に、「僕が頑張って未来を担う!まかせて!」という気迫も伝わってくる。
未来を見据えた写真であり、記憶に留めたいとする評者の眼差しも温かい。
佳作「一人の死を無駄にしないために」
私が選んだ1枚は2020年にアメリカ・ミネソタ州で白人警官に首を圧迫されて黒人男性のジョージフロイドさんが亡くなった事件の裁判で殺害した元警官が有罪判決を受け、喜びを見せる人々の写真だ。この事件はアメリカに留まらず、世界中に大きな影響を与えた。
私は当時昔に比べたら差別がかなり減ったと勝手に思っていたが、この事件でずっと差別で苦しんでいる人が依然として多くいるという事実を認識した。そして海外に住む友達もみなSNSでハッシュタグをつけて抗議をしていて自分も差別について考えなくてはならないと感じた。
また2014~2019年まで警察による死亡事件で無罪になった割合が99%だったため今回有罪になったという事実は大きな意味があると感じる。様々な人の思い、そして行動によってなされた結果だ。世界のあらゆる分野に影響を与えたこの事件が裁判により一旦終わった。
しかし差別という大きな問題が終わったわけでは決してない。我々はこの問題を忘れることなく一生付き合っていかなくてはならない強く感じたので、この1枚を選んだ。
[法政大学 渡辺 光我]
[講評] 羽場久美子(青山学院大学国際政治経済学部教授)
昨年この講評でも触れた黒人フロイドさんの死から5月末で1周年である。この1年間BLM(黒人の命も大切)運動が全米から世界に広がり、これまで黒人を警察が殺しても99%無罪であった状況を大きく変えていった。
アメリカ多民族社会の根幹を揺るがし、コロナ禍でアジア人への暴力が広がる中、黒人・アジア人・ヒスパニックが安全に生きられる社会の構築がアメリカおよび世界で求められよう。評者の差別への鋭い視点もとても良い。
佳作「コロナ禍での愛」
この写真を選んだ理由は、コロナ禍において忘れかけていたコミュニケーションの重要性を再確認できたからである。新型コロナウィルスは、自粛期間などを経て、私たちのコミュニケーションの希薄にした。しかし、むしろ人々の暖かさを再確認させた時期であったと私は考える。
ポストコロナにおいて今一度人々が愛を持って触れ合えるようになればいいという願いをこめている写真だと思う。
[立教大学 岩田 香乃]
[講評] 羽場久美子(青山学院大学国際政治経済学部教授)
イタリア、ヴェネツィアに近い老人ホームの「ハグルーム」で、年老いた母と娘が額を寄せ合って涙している。コロナで直接抱きしめることはできないが、やわらかいプラスチックスクリーンを通してお互いの愛とぬくもりを感じることができる。心温まる作品である。
他に結婚カップルの愛情写真へのコメントもいくつかあり迷ったが、特にコロナ禍に怯え死を前にした年老いた母娘の深い愛情と生への哲学性さえ感じさせられるこの写真を選んだ。
評者の温かい目線も素晴らしい。「忘れかけていたコミュニケーションの重要性」、「コロナは人々の温かさを再確認させた。」コロナ後、「今一度人々が愛をもって触れ合えるようになればいい」。1年間の自粛を超えて触れ合いを求める人々の要求を、愛に包んで評価した素敵なコメントに感銘を受けた。
今年も、素晴らしい写真と、国際政治の学生さんらしい、鋭い分析とあたたかい視点を持ったコメントを堪能させて頂きました。選ばれなかった多くの写真も、すべて合格点を上げたいほどの素晴らしいコメントでした。
ありがとうございました。
2020.04.20
[十大学合同セミナー・AFPWAA WORKSHOP 2020]
AFP Forum から下記の課題に最も相応しい
一枚の写真(もしくは図表)を 選択してレポートを作成してください
課題「世界は新型コロナウィルス感染症とどう戦ったのか」
応募期間:2020年4月14日〜2020年5月15日
■応募要項
1.AFP Forumデータベースから上記課題に沿って1枚の写真、もしくは図表(GRAPHICS)を選定してください。
2.選定した写真、もしくは図表(GRAPHICS)に日本語タイトルをつけてください。
3.選定理由を200字〜400字程度で記述してください(日本語)。
4.応募に際してはあなたが所属する教育機関(大学)から付与されたメールアドレスを使用してください。
5.応募期間: 2020年4月14日 〜 2020年5月15日
6. 発表:6月上旬。全応募作品をAFPWAAワークショップ特設サイトに掲載します(プラットフォームは “Instagram” 、”AFPBB News” 特設サイトを予定)。優秀賞数名(副賞:Amazonギフト券¥1,000)、さらに全応募者から最優秀賞1名(副賞:Amazonギフト券¥10,000)を選出します。
審査は青山学院大学国際政治経済学部教授 羽場久美子先生、同教育人間学部教授 野末俊比古先生のお二方がご担当してくださいます。
019年に開催した[AFPWAA WORKSHOP]応募全作品がAFPBBに掲載されています。
詳細はこちらからご参照ください → https://www.afpbb.com/category/afpwaa-workshop
今回のワークショップの目的は、世界5.000社のメディアが活用している海外通信社のデータベースを通じて、実際に自ら学習してみることにあります。
■主催:AFP World Academic Archive
AFPWAA WORKSHOPに参加されるみなさまへ
なぜ、世界の「先進国」を中心に感染者215.7万、死者14.4万という大惨事になったのか(トップ10は(イランを除き)すべて先進国)。
自由の国・豊かな国の代表格であるアメリカで、現在67万人、毎日3万人が感染し、1か月で3.4万人がなくなりながら、なぜピークを越えたと宣言できるのか。
ニューヨークはスペインを大きく超えて22.5万人感染し、NYだけで、1か月で1.6万人もなくなっているのに、日本は遠慮して何の報道もしないのか。黒人が死者の7割、ニューヨークのロングアイランドの無名墓地に毎日死者のお棺が運ばれているのか。
あまりにも悲惨な状況であるにもかかわらず、日本の新聞は全く報道しないで、トランプの中国批判WHO批判を1面で報道しています。むしろ、ニューヨークではロックアウトをされていても公園で皆遊んでいるという記事が緊急事態宣言の次の日に出て驚きました。白人が多数死ななければ問題ないということなのでしょうか。
日本も、県で何名増えたということばかりで、全体であと1,2日で韓国を抜いて進んでいく実態をなぜ報道しないのか、歯がゆくなります。世界の貧困を調べているとき、「弱いものから死んでいく」という語が心に刺さりました。高齢者たち、ホームレス、貧しい人たち。その人たちを思いやる心が日本人には、若者たちにも、あると信じたいのですが。
AFP通信には、良心的かつ透明性と事実重視の優れた報道機関としてぜひ頑張っていただきたいと存じます。
そして今回のワークショップを通して、改めてセミナーに参加した学生の皆さんの視点や感性から学ばせていただきたいと思います。
(2020年4月17日 青山学院大学国際政治経済学部教授 羽場久美子 記)
(注)数字は ”COVID-19 Dashboard by the Center for Systems Science and Engineering (CSSE) at Johns Hopkins University (JHU)” 4/17/2020 10:38:27
https://coronavirus.jhu.edu/map.html
2019.11.5
[AFPWAA STUDENT WORKSHOP]
AFP Forum から下記の課題に最も相応しい一枚の写真を 選択してレポートを作成してください
GOAL 12 RESPONSIBLE CONSUMPTION AND PRODUCTION
— つくる責任つかう責任 —
応募期間 2019.11.01〜2020.1.31
Jewel SAMAD / AFP
[応募要項]
最初にAFP Forumのアカウント登録を行ってください。
A. ご契約いただいている法人の大学生が登録される場合はこちらから。
B. 中学生、高校生、その他の大学生の方が登録される場合はこちらから。
1.AFP Forumデータベースから課題「 RESPONSIBLE CONSUMPTION AND PRODUCTION — つくる責任つかう責任 — 」に相応しいと考える1枚の写真を選定してください。(”JAPAN OUT”と英文キャプションにある写真は選定出来ません。詳しくは「ご応募にあたっての確認事項」を参照してください。)
2.選定した報道写真に日本語タイトルをつけてください。
3.選定理由を200字〜400字程度で記述してください(日本語)。
4.応募受付はオンライン(http://j.mp/2pm9axA)にて行います。応募に際してはあなたが所属する教育機関(大学)から付与されたメールアドレスを使用してください。
(所属する教育機関のメールアドレスをお持ちでない場合、ラウンドテーブルコムのサイトで転送用アドレスを取得してください。取得後にそのアドレスを応募フォームにご記入ください。)
5.応募期間:2019年11月1日 〜 2020年1月31日
6. 発表:2020年2月中旬予定。全応募作品をAFPWAAワークショップ特設サイトに掲載します(掲載プラットフォームはInstagram、AFPBB NEWSサイトを予定。(一部、Instagram に掲載出来ない写真があります。詳しくは「ご応募にあたっての確認事項」を参照してください。)
優秀作品には副賞(Amazonギフト券¥2,000)を贈呈いたします。さらに全応募者から最優秀賞1名(副賞:Amazonギフト券¥10,000)を選出します。
7. 応募要項はAFPWAAサイト(http://www.afpwaa.com/)にも掲載します。
今回のワークショップの目的は、世界各国13,000社のメディアが活用している海外通信社のデータベースを、課題制作を通じて実際に自らの体験として学習してみることにあります。
これまでに開催した[AFPWAA WORKSHOP]応募全作品がAFPBB NEWSに掲載されています。
https://www.afpbb.com/category/afpwaa-sdgs
■主催:AFP World Academic Archive
■協賛:SDGsポイント研究所@ジャパン(事務局:有限会社ラウンドテーブルコム)
■協力:一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン
2019.05.28
この度はAFPWAA WORKSHOPにご参加いただきありがとうございます。
今回、あなたがAFP Forumから選定して写真を使用する場合、及びその写真のInstagram、AFPBB News特設サイトへの掲載にあたっては、以下の確認事項がございます。
最初にAFP Forum で写真を検索する場合、必ずあなたが取得したID、パスワードでログイン後、検索をスタートしてください。
ログインはこちらから → AFPWAA
1.写真の使用制限について
AFP Forumに掲載されている写真のうち、英文キャプションに以下の表記のある写真は使用できません。
JAPAN POOL
JAPAN OUT
INTERNET OUT
NO INTERNET
JIJI PRESS
2.応募作品の掲載について
ご応募いただきました全作品は原則としてAFPWAA公式Instagram及びAFPBB News特設サイトに掲載いたしますが、一部の作品につきましては掲載サイトのガイドラインに従い掲載できない場合がございます。また、応募者のレポートが「写真・英文キャプション」と乖離した内容の場合、事務局の判断により掲載を見送る場合があります。予めご了承下さい。
刺激の強い画像、暴力的な画像、ヌード画像、不快に感じる画像等。
詳細は下記のInstagram コミュニティガイドラインをご参照下さい。
コミュニティガイドラインhttps://help.instagram.com/477434105621119
AFPBB News
以下の画像の掲載についてはAFPBB Newsで判断のうえ、掲載不可又は画像にシャッターを掛け掲載する場合があります。
刺激の強い画像、暴力的な画像、ヌード画像、不快に感じる画像等。
上記項目についてご了解いただきました上、ご応募いただきますようよろしくお願いいたします。
みなさまの力作を期待しております。
2019.05.4
国際平和映像祭(UFPFF) は平和をテーマにした学生が対象の映像祭です。本映像祭を2011年より毎年9月21日の国連が定めたピースデーに合わせて開催しています。グランプリ賞金は10万円で、受賞者は11月に開催される国連機関主催の映像祭「PLURAL+2019」にご参加いただけます 2015年より「AFP通信賞」も新設いたしました。多くの皆様のご応募をお待ちしております。
(運営 一般社団法人 国際平和映像祭)
■募集期間 2019年3月21日(木)~7月21日(日)
※AFP通信賞のみ応募締め切りは8月31日となります。
■日時: 2019年9月15日(日) 15:00-20:00頃開催予定
■場所:JICA横浜(横浜市中区新港2丁目3−1)
■主催:一般社団法人 国際平和映像祭
■後援:JICA横浜(予定)、横浜NGOネットワーク、横浜市国際局(予定)
■協力:(株)クリエイティヴ・リンク、ユナイテッドピープル、横浜コミュニティデザイン・ラボ
メディアパートナー:ヨコハマ経済新聞、greenz.jp
■映像テーマ:平和に関連する作品 (例)SDGsのゴールのどれかに関連
■対象者 世界中すべての学生
■言語 日本語/英語(目英以外の揖合は英語字幕必須)
■作品時間 5分以内(2019年以後に製作された作品)、2作品まで
■映像形式 MOV、MP4、 AVI、 MPEGのいずれか。(アスペクト比は16:9推奨)
■グランプリ:副賞 現金10万円
また、国連機関がニューヨークで11月に主催するPLURAL+アワードセレモニーと関連イベント参加権
※現地までの交通費はご自身のご負担となります。
■準グランプリ
■審査員特別賞
■AFP通信賞:「AFP写真年鑑 2019 (非売品)」、「 Amazon ギフト券 3万円分」
オンラインデータ べースサ ー ビス「 AFP World Academic Archive」を正式導入 いただいている大学の学生のみなさん(十大学合同セミナー参加学生含む)は、今回のコンテスト応募にAFPのデジタルコンテンツをご活用ください。選考の上、最も効果的にAFPのデジタルコンテンツを掲載した作品に「AFP通信賞」を授与いたします。
なお、正式契約大学以外の学生で、今回の応募作にAFPデジタル素材を利用したい方は下記のサイトから利用申請を行ってください。申請者に利用目的及び期間を今回の応募作品制作に限定したAFPWAAアカウントを発行いたします(発行費用は一般社団法人 国際平和映像祭が負担)。ただし、ご利用については日本の教育機関(大学・高等学校等)に所属する教職員、学生等に限定されます。
http://www.ufpff.com に詳細情報を掲載 しております。ぜひ奮ってご応募ください。
■2017年度AFP通信賞:
『春と夏の間に、夜と朝の間に』- Somewhere in Between 小林 令奈 監督 (慶應義塾大学/日本)
■2018年度AFP通信賞: